瞳が映す景色
白鳥さんは大馬鹿だ。やり方が間違っているから、あたしみたいな重傷者が積み上がっていくっていうのに。その歩いてきた道を振り返れば骸だらけだ。
でも、白鳥さんは振り返らない。
言葉通り……本当に忘れてしまうから。
工作用鋏で切ってしまった髪を美容院で整えてもらい、ふっきれなんてしなかったけど日々を過ごした。肩までも届かなくなった髪は、巷の言葉通りに心に沈殿したものを一部浄化してくれた。
時間というものは、聞いていた通りに、傷を、ケロイド状にではあるけど縫合してくれた。
大学はそれなりに充実していたから、遊びも含めて堪能している。新しい出合いに埋もれる中で、あたしはちゃんと笑えていた。
ちゃんと、白鳥さんと再会したときも、あたしは笑えていたと思う。
一年と少し前、向かいのマンションに越してきた白鳥さんを見て止まった呼吸は一瞬。業者さんのトラックに駆け寄り話す声を聴いて硬直したのも一瞬。
だから、大丈夫なんだ。
もう三年前の出来事だから、どうとでもなる。ただ、振られただけなんだし。苦笑いのひとつでもして流してほしい。
ほどなくして、お店の常連になった白鳥さんは、本当に覚えていなかったあたしと毎日近く顔を合わせる。毎日毎日、気付きもしないで尻尾を振ってくる。
多少なりとも身構えていた気持ちのやり場を押し付けるように、冷たくあたってしまうくらいは許してもらおう。
大丈夫なあたしだから、こうしてここにいられるんだ。
泣き続けることなんてなくて、あたしは白鳥さんとこの関係をもう少し続けるんだろう。