瞳が映す景色

「女の子は、ああいうのがいいの? 現段階では、確実にあの男のほうが男性主人公より世間の評価高いよね」


確かに、あたしもそうかもしれない。物語の結末を小説で知っていても、それは変わらなかった。


男性は、好きな人が傷付かないように、あらゆるものから守っていて。だから、傷付くだろう男性主人公からも遠ざけようとしていた。


面倒で、あたしは簡潔に意見する。そうしないと、全力で断った感想文を本当に提出されそうだし……。


「――見返りを求めてない、本当に一切求めないあんな愛情が現実にはなかなか存在しないから、憧れも混ざってるんじゃないかな。物語には夢を見るしね」


「ふ~ん」


「でも、やっぱり憧れは憧れだから、――あたしは、全部知りたい。だってありがとうくらいちゃんと言いたいじゃない」


「それが、たとえ男を傷付けるとしても? 応えてもらえない『ありがとう』は結構抉られるよ」


「あ……っ」


あたしは、どうやら抉りかけてしまったみたいだ。報われないのは、状況こそ違っても共感してしまうんだろう。


その曇った表情をすぐに晴らし、白鳥さんはいつもみたいに惑わせる笑みをたたえる。


「嘘嘘っ、気にしないの。――お詫びにこれをあげるよ」


手招きをされ近寄ると、白鳥さんは鞄の中から辞書を取り出し頁を捲る。そうして、栞みたいに挟んであったポストカードをあたしにくれた。


淡い緑で描かれているイラストは、あの映画のものだった。


「これ……」


「オールナイトの、来場記念だって。貰ってくれる?」


戸惑うあたしなんか、きっと白鳥さんは予測済みなんだろう。突き返される前に、それは殊更柔らかな声色で伝えられた。


「向けられるコウイは、全部知りたいんでしょう?」





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