瞳が映す景色
高校時代が蘇る。
体育祭のあの日、白鳥さんの青い車に乗せてもらったことを。
今、それに乗せられたとしたときの菜々の顔を想像する。きっと、この世の終わりみたいに嫌な表情をするんだろう。そういえば、雅には最近会ってないな。
「――」
なんだ。
うん。楽しい。
だから大丈夫。
「友達誘うって、春先にここに現れたコスプレちっくな小さい子?」
「きっともう会うことはないけど、白鳥さんに小さい言われたら、あの子確実に成敗しに来るから。――相変わらず軟派だね。ちょっとしか見てないのに覚えてるなんて」
「ああ。なんかね、懐かしい子だったんだ」
「……」
驚きを、表面に出さなかった自分を誉めよう。
「なんかね、藁科に、雰囲気が似てたんだ。たからかな」
「そう」
「うん」
動揺は悟られることなく、白鳥さんはまた独りごちた。菜々と、久しぶりに名前を聞く藁科さんは、雰囲気が似ているらしい。
懐かしいなと、白鳥さんは藁科さんを振り返る。どうしているんだろうと、懐かしむ。
見えない月を見上げて、視線をさまよわせる。
「やっぱり、藁科さんのこと好きなんじゃないの? いいよ。そっちのが健全で」
「違うよ~。僕はずっと一途だよ」
「ふうん。一途過ぎて、ちょっと最近踏み外してるんじゃない?」
「えっ?」
また、見かけてしまったんだ。
初めて二人を見かけたのは何処かの雑貨屋。お似合いだと感じた二人は、それでも問題ある行動かもしれないのに、最近、その光景を、あたしはこの付近で目にしていた。
互いのパーソナルスペース内で、白鳥さんと人妻は仲良く並んで歩いていた。