瞳が映す景色
「あんまり大っぴらに人妻と仲良く歩いてるのはどうかと思う。怪談じゃないんだから、どんどん近付いてくるとか……」
先日見かけたとき、白鳥さんと並ぶ綺麗な女の人の左手の薬指には指環が遠目からでも見てとれた。以前と同じ人だったし、もう確定だろう。
あたしが二度も見かけるんだから、他の人にだってきっと。なら、危険なこと。
「あ~、……あれは、そういうのじゃないんだけど……ね?」
「デートじゃなかったとしても、誤解されるには足りすぎてるよ。誤解でもないんだけど。あたし、修羅場が店の前とか嫌だからね」
「巻き込まれてくれるの?」
「救急車呼ぶくらいはしてあげるかも」
そして、救急車の中、自業自得だと傷口に塩を塗るあたしを予知した。
あたしは、優しくなんてなくて、ひたすらに勝手なんだと再確認する。
きっと、優しくしてほしいだろう白鳥さんに最近そう出来ないのは、そろそろ嫌気がさしてきたからなのかもしれない。
そんな内心など、知られなくていいのだけど、白鳥さんは愛しい人妻に想いを馳せる。話題に出しただけで、色に惚ける。
「相手の状況は限りなく尊重してるし、幸せな生活を壊すのはしないよ。――けど、僕を想ってくれて、僕のとこ来てくれるなら、ゴタゴタなんかどれだけでも請け負う覚悟なんか、とっくにしてる。今の僕が持ってるもの、全部捨ててもいい」
頷けなかったのは、少なくとも教師の白鳥さんを尊敬していて、頑張りを見てきたから。
人妻が、あたしと同じようにそれを見てきたのだとしたら、きっと白鳥さんに全てを捨てさせるなんてこと選ばないと思うんだけど。
本気の愛情というのは、それが可能なんだろうか。白鳥さんがどれだけでも請け負う覚悟があるみたいに、人妻も、捨てさせた白鳥さんの全てを受け止めるのかもしれない。