瞳が映す景色
「現実は物語よりも奇なりで、複雑な迷路だね」
うん。あたしには、
「そうだね~」
分からない。
覚悟をとっくにしてしまっている白鳥さんは気楽に相槌を打ち、それがあたしを苛立たせる。
「あたしには全く理解できません。――藁科さんなら、解ってくれるんじゃない? 白鳥さんの特別でしょ?」
「――うん。そうかもね」
……、
ああ。
なんだろう。
気持ちが、悪いな。
泣くのは、振られたあの日で終わりにしたはずだった。
なのに、三ヶ月ほど前に涙してしまってから、あたしは変になるときがあってしまう。
視界が眩むみたいに、まるで白鳥さんが四年前の姿に見えてしまう。少し、今よりもあどけなくて、髪の短い、今と変わらない笑み。
よろめいてしまいそうになり俯くあたしの肩からは、流れてこないはずの腰近くまであった長い髪がさらさらと落ちてきて。てっぺんから爪先まで、制服を着込んだ高校時代のあたしに変身してて。
声がする。もう本当に忘れてしまった嘲笑われたときの言葉を、無理矢理リプレイして刻もうと。
馬鹿みたい……本当に忘れてしまってるのに、引きずり出そうとするなんて。
ああ。気持ちが悪いな。
今日もまた、ご飯が美味しく感じられないんだろうな。
ごめんね。お母さん。佳奈ちゃん。明日からはまた、おかわりするから。
大丈夫。
対処法は、もう心得てる。
深夜。
お風呂上がり、ベッドに寝転がり、念のため、家族中が寝静まるのを待った。