瞳が映す景色

②ー7・嘘 嘘

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②ー7・嘘 嘘
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「小町、楽しんでるか?……って何だっ、そのやさぐれた酒の呑みかたはよ……」


「なんか用? 韮崎」


年度末より一足先に幕を閉じたゼミの慰労会。けど、本来なら三年で終了のはずだったものが延長され、夏休み直前まで行われていたものだから、皆の解放感はひとしおで、教授なんて一番はしゃいでいる。遠くに見えるその姿は、長引かせてしまった責任をもう抱えなくていいと、さっきからビールジョッキ回転率の高いこと。


「ちょっと間が開いたから盛り上がりきれてないのかよ」


韮崎柳と、どちらも名字みたいだなといつも思う男子は、皆仲がいいゼミ生の中でも、とくに頻繁に集まっていた顔の一人。周りに気遣いばかりの達人で、今日もそれは発揮されているみたいだ。こんな最果ての端の席までチェックを欠かさない。


「それはないけど――お盆前まで皆の予定合わないって、どんだけ皆充実した毎日送ってるんだろ」


「何。小町は枯れた生活だったのかよ。だったら遊んでやったのに」


「韮崎バイトばっかだったじゃない。この前アウトレットまで車走らせてくれたし、枯れはそこで潤いました」


「おー。だってワゴンあったの俺んちだけだったしな。七人の尊い命を乗せて走るのは緊張したけど、晩の焼き肉は奢りだったから良かったぜ。富士山も圧巻だったし」


「うん。歌そのものに日本一でした」


なー、と相槌を打ちながら腰を落ち着けた韮崎は、お皿にある山盛りの枝豆を、まず全て豆と殻に仕分ける。そうしてからじゃないと食べない癖は、いつもながら笑わせてくれる。


「うん。眉間の皺、消えたな」


「っ」


気遣いの達人は、満足げに枝豆を食べ始めた。

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