瞳が映す景色

そこからしばらく、林檎との睨み合いが続いた。よりにもよって、そのままの姿のアップルパイはないだろう。


…………、


「あの時、林檎好きなんて片山先生が言うからです。――はいどうぞ。希望のお団子、あんこたっぷりです」


「……盗み聞きか」


「いえ。たまたま」


オレの肩口から白く細い腕が伸びてきて、アップルパイはもらわれていった。もちろんオレの腕じゃない。オレのはそんなに乙女じゃない。


「……藁科。団子は感謝するから、どうかそのアップルパイをむしゃむしゃ食べながら後夜祭へ向かってくれ。ダッシュで」


「先生、お疲れ様でした。見回りとか大変でしたね。そんなに忙しかったものだから、私の浴衣姿を見に来てくれなかったんですね」


辺りの気配に神経を研ぎ澄ました。


「大丈夫。みんな校庭です」


……見透かされるのはいただけない。同時に、気遣われていると感じてしまうからだ。藁科のせいで被害をこうむっていることに、そんなふうにされてもなんだが。

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