瞳が映す景色
「なんかあったのか? 小町も酒ばっかじゃなくて枝豆も食えよ。何かを分解してくれていいらしい」
会が始まってから、あたしはほうれん草のお浸しだけを肴に、甘いカクテルばかりを口にしていた。
「それって、ビールにだけ効果あるんじゃなかったかっけ?」
「知らね」
「あたしも知らない。――うん。でもありがと」
もうそろそろ止めておかないと誰かの介抱が必要になってくるくらいには、口内が脈打っていて。七分丈から伸びる手首、手のひらは、充血が半端なかった。
韮崎が気付いたということは、きっと顔も腫れるように赤いんだろうな。今日の幹事は目敏い。
「感謝してくれるなら、あの話、深町さんに受けるよう説得してくれよ」
ああ、それが言いたいからこんな片隅まで来たのか。納得する。
「あたしはちゃんと菜々に伝えたよ。韮崎も直でお願いして断られたんなら諦めな。菜々、舞台とか絶対上がんないし。写真でも口元ひきつるんだから、人形のふりなんてって震えてた」
「もっかい小町から頼んで? ――人形は嫌だしさ、外部から、しかも子供連れてくる訳にはいかないんだって」
演劇サークルに所属している韮崎は、秋の大学祭の舞台でキャスティングや裏方を担当しているらしい。その舞台で、生きているかのような少女のアンティークドールが登場するらしいのだけど、韮崎はそこに菜々を使いたいと言う。
動かない、勿論喋らないドールだから緊張も必要ないからと菜々に頼んでいたのは、先月の学内でのこと。欲しいものを買ってあげるからと懇願する姿は誘拐犯みたいだった。
「言うだけなら、してあげなくもない」
まあ、言うだけになるのは目に見えてるけど。