瞳が映す景色

途端に、韮崎はあたしを崇めるように、枝豆の豆がたんと乗ったお皿を献上してくる。


「そうかそうか。じゃあまあ食えよ。たんとあるぞ。会費分は腹に入れていけ」


悩みと全く関係ない、気のおけない会話の先には、いつしか胃に余裕も生まれる。韮崎に言われるまま枝豆を二粒ほど口にし、最後に指を舐めると、強い塩味がいつまでも舌に残った。


「おっと。アルコールは休憩な」


もう氷が溶けて薄まったカクテルに手を伸ばそうとしたら、それは韮崎に隠されてしまい、誰かが頼んだ烏龍茶を渡されてしまう。


「甘いのがいい」


「カラアゲも食えよ。骨と皮になって枯れる前に。――ちょっと痩せたよな」


「……だから糖分」


食べることが好きな韮崎は、栄養補給としてだけのあたしの食事のしかたに眉をひそめる。


あたしだって、本来ならそうだ。


小皿に勝手に取り分けられた料理の数々。美味しそうだと感じるあたしは、まだまだ大丈夫だ。咀嚼したカラアゲは、この居酒屋イチオシメニューで、ニンニクと生姜の下味が効いていて美味しかった。


「悔しいけど美味しい」


そう感じることに、悩む自分を軽視しているみたいだとも感じて余計に落ち込む。


そんなこと、あるはずないのに。


「おうっ。紙にくるんで持ち帰れ。そして電車内で食えよ。この前フライドチキンを車内で頬張る女子高生を見たけど、あれは注意すべきだったかなぁ」


「……知らない」


身体の衰退以外にも、夏バテ防止も考えるようにと、塩味の強いポテトフライも眼前に突き出された。


揚げ物ばかりじゃないかと抗議をしようとしたけど、厚切りのポテトフライは、これまた悔しいかな美味しかった。

< 291 / 408 >

この作品をシェア

pagetop