瞳が映す景色
途端に、韮崎はあたしを崇めるように、枝豆の豆がたんと乗ったお皿を献上してくる。
「そうかそうか。じゃあまあ食えよ。たんとあるぞ。会費分は腹に入れていけ」
悩みと全く関係ない、気のおけない会話の先には、いつしか胃に余裕も生まれる。韮崎に言われるまま枝豆を二粒ほど口にし、最後に指を舐めると、強い塩味がいつまでも舌に残った。
「おっと。アルコールは休憩な」
もう氷が溶けて薄まったカクテルに手を伸ばそうとしたら、それは韮崎に隠されてしまい、誰かが頼んだ烏龍茶を渡されてしまう。
「甘いのがいい」
「カラアゲも食えよ。骨と皮になって枯れる前に。――ちょっと痩せたよな」
「……だから糖分」
食べることが好きな韮崎は、栄養補給としてだけのあたしの食事のしかたに眉をひそめる。
あたしだって、本来ならそうだ。
小皿に勝手に取り分けられた料理の数々。美味しそうだと感じるあたしは、まだまだ大丈夫だ。咀嚼したカラアゲは、この居酒屋イチオシメニューで、ニンニクと生姜の下味が効いていて美味しかった。
「悔しいけど美味しい」
そう感じることに、悩む自分を軽視しているみたいだとも感じて余計に落ち込む。
そんなこと、あるはずないのに。
「おうっ。紙にくるんで持ち帰れ。そして電車内で食えよ。この前フライドチキンを車内で頬張る女子高生を見たけど、あれは注意すべきだったかなぁ」
「……知らない」
身体の衰退以外にも、夏バテ防止も考えるようにと、塩味の強いポテトフライも眼前に突き出された。
揚げ物ばかりじゃないかと抗議をしようとしたけど、厚切りのポテトフライは、これまた悔しいかな美味しかった。