瞳が映す景色
「……もうさ、色々、面倒ばかりなのですよ……」
何も知らない韮崎に愚痴をこぼす。
何も知らない韮崎だから。韮崎だから、愚痴としてこぼせるんだろう。
「てっきり失恋の痛手の傷心かと思った」
「違います」
深く、掘り下げられないのがいい。言えることなら言っているんだから。
もう一度枝豆を口にして、また同じように塩味の付いた指を舐める。ふと視線を感じると、韮崎にその動作の一連を観察されていた。
「……何?」
「っ、いや――爪も血色、良くないな、と」
ネイルをしてないからそう見えるんだろう。飲食のバイトをしてる子は大抵加工しないで切り揃ってるだろうけど。
おしぼりで拭いてから、行き場を失くした両の手を、指摘された爪をマッサージしながら胸の前に落ち着ける。暖色系の照明の下だからか、全てに赤身が差してきたみたいに感じた。
「面倒な男に付きまとわれて困ってるだけ」
「なっ!? ストーカーって大丈夫なのかよっ!!」
「平気平気。ストーカーじゃないし。――、そうだったら、もっとどうにか出来るのにね」
表現方法を、少し間違ってしまったかもしれない。ああ。でもいっそ、そういう類いのものだったらここまで困らないんだろうな……なんて考えるのは、被害者に対して失礼で最悪だ。あたし、最低……。
「小町」
ほら。韮崎にもこんなに迷惑をかけてしまう。
「ごめん、韮崎。えっとね、面倒な友達がいるの。どこかの人妻が好きで、その愚痴をあたしに散々こぼしてきては慰めて欲しがって、あの外見があるから選り取りみどりなのに人妻以外からの好意にはとことん冷酷で人でなし。あっ、でも最近は改善されてきたかもしれなくて、他事には最悪じゃなくて、でもいい加減だし――」