瞳が映す景色

「――悪い人じゃないから、どうにかしてあげは出来ないけど、無下には出来ないんだよね」


「なんだよ、それ。そいつ駄目な奴だなぁ」


不毛な恋など、韮崎からしたら堕ちるなんてこと考えられないだろう。万人の総意だろうし、あたしだって堕ちたくない。


「でしょ? その人しかも、昔あたしと会ってること忘れてんの。短期間だったけど、ちゃんと目を見て言葉を交わして、最後には告白だってしちゃったあたしを」


笑い話に、あたしは出来るんだ。


笑って、あたしは笑い話だとおどけた。


「なんだよ、それ」


韮崎の端正な目もとはよく動く。いつも表情豊かだから顔の筋肉が柔軟なのかな。あたしも、もう少し韮崎みたいだったらいいのに。顔面体操は生憎やってないな。


「でしょ?」


「違う。小町が」


「?」


端正な目もとの上にある力強い眉を八の字に下げ、韮崎は慰めてくれるみたいに苦笑した。


「なんだ。やっぱり、失恋じゃないか」


「……昔のことだよ」


「おう。――、そっか」


会話はそこで途切れ、賑やかな宴の音が鼓膜を揺する。喉が渇いて烏龍茶に手を伸ばすと、同時に韮崎もビールを煽っていた。


「おいお前らっ!! 個室だからって騒ぎすぎだっ。酒の一気飲みも禁止っ」


幹事らしく、誰よりも兄らしく親のようにも注意する韮崎は、けれど自分もビールを一気飲みしていた場面を友達から指摘され、頭を掻きながら何も言えなくなってしまい。


「あー、疲れた」


「一言叫んだだけじゃん」


浮かした腰をまた下ろし、隅の席は落ち着くと後の壁にもたれ掛かる韮崎は、一度目を固く閉じて、開けられたそれは僅かに細められていた。


「小町。俺――」

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