瞳が映す景色
「っ、ひゃっ!?」
「――ぉ、っ」
あたしの驚いた声に、俺と言いかけた韮崎の口が開いたまま停止した。
「あっ、ヤダッ」
突然、背中にぴたりと温もりを感じたあたしは、続けざま後方両の脇腹あたりから回された腕に抱きしめられ、耐え難いくすぐったさに声を上げてしまったけど、がちりとホールドされていて脱け出せない。
「――、こまっちゃん……酔いすぎ」
回された腕は柔らかくて、ふわりと甘い。落ち着く匂いがして首を後ろに捻ると、小さな親友があたしの背中に頬擦りをしていた。
「……菜々。どうしたの?」
「こまっちゃんが困ったちゃんになってないか偵察に。――韮崎くん。こんな酔った小町に優しくしても、韮崎くんは後々悲しくなると思うよ」
何が『こんな』だ。酩酊なんてしてないし、恩を忘れる呑み方なんてしたことない。
韮崎は突然現れた菜々にデレデレとした視線を向け、これも何がだ、分かったと頷きながらスマホを取り出した。
「ちょっ、小町動くなよっ、写メるから」
「……」
どうやら、あたしの右脇下から顔を覗かせた菜々を写メろうとしてるらしい。いいアングルなんだそう。さっき言いかけた神妙な表情など欠片もなくなり、目線を決してレンズに合わせない、あたしの腕を隠れ蓑に絶対に写されないようにしている菜々を追っている。
けど攻防は長くは続かない。一年の頃、踏み台を探していた菜々の、その身体を持ち上げて助けてあげた韮崎は、以来見事に菜々から怯えられるようになったものだから、程よいところでスマホは胸ポケットに仕舞われた。
こんなことで嫌われたくない韮崎は、明け透けに菜々のことがお気に入りだ。