瞳が映す景色
今日の菜々は虫の居所が悪いのか、思える思えると早々に相槌を打って、違う話題に移行することにした。
「そっ、そうだ。菜々は二次会行く?」
「行かない。小町は?」
「あたしは、行く、かな」
まだまだ楽しく遊んでいたかった。そう易々といつも浮上してくれないのに、この機会を逃す手はなくて。遅い時間に帰ったほうが、万が一にも偶然ばったりの可能性も低いだろう。
――ああ。そういえば、ちゃんと食事はしてるのかな。あたしがいない日は、来ないときもあるみたいだし。
まあ、一日くらいでは干からびないから、そこまであたしが気に病む必要はない。
「そっか。今日は韮崎くんとか他にもいるから小町を置いていっても大丈夫かな」
「そうだね」
「楽しんできてね」
「ありがと」
ようやく普通に接してくれた菜々と会話が弾みだした矢先、そろそろ会は終了だと号令がかかった。
「小町」
「何? 菜々」
帰宅組と二次会組に別れようとしていたとき、呼び止め指摘された内容に冷や汗が流れた。
「髪、酷いから、直してから行ったほうがいいよ」
菜々が自分の頭頂部を触って場所を示す。
「あっ……ありがと。そういえば、韮崎に思いきり弄られたんだった。トイレ行ってくる。じゃあね、菜々」
「……うん。明日だけど、小町の家に行くね。あと――」
バレてないと最大限安堵はしたけど、驚いた心臓は、なかなか治まってはくれない。
だから、菜々が続けた言葉になんて上の空。トイレの鏡の前で髪を直すのことに必死になるだけだった。
「――韮崎くんは、誰の頭でも撫でていく人じゃないよ」