瞳が映す景色
「あ……あの……韮崎、ちょっと近いよ」
「うん。わざとやってる」
「手、離して」
「嫌だ。離したくない」
あたしたちの横を、サラリーマンのおじさまたちが興味津々に含み笑いしながら通り過ぎていく。
湿気をふんだんに孕んだ季節のせいだけじゃない。韮崎の手はしっとり汗ばんでいて。緊張に結ばれた唇は時々痙攣し、良く似た身長的にどうしてもそれらが目に入ってきてしまう。
本気? なんだろうか。
あたしと、なんて。
「――小町」
「っ」
とても近い距離で聴く韮崎の声は、とても掠れていて、色っぽい。
「最近の小町、見てられないよ。痩せたし、あんま笑ってない」
「そんなこと……」
「眠れても、ないだろ。目の、くまが酷い」
「……」
「俺がどうにかしてあげたいって、思っちゃ駄目か?」
「駄、目なことなんか、ないけど……」
心配してくれてるのは痛いほどに。
「小町」
あたしを、ちゃんと女の子扱いしてくれてたことは素直に嬉しい。
「韮崎は、あたしと、……泊まるとか……あ、全然そういうのは含んでなく……」
「いや。一般的なあの場所の使用目的なことを、俺は小町としたい」
その言葉に心震えるのは、いけないことだろうか。
「――、いいよ」
「っ、小町……」
「うん。いい」
優しい優しい韮崎なら、こんなに、あたしと一緒にいたいとしてくれてるのなら。