瞳が映す景色
「行こう」
誘われたほうが、今度は誘ったほうを促そうとした。
けど、何故か足取りの重いことに気付く。
「韮崎?」
「マジで、いいと思ってるか? 伝わってる? 俺、欲とか色々押しつけてるんだぞ」
「それだけじゃないことは分かってる。うん。いいの」
「そんな簡単にっ」
勿体ない、あたしへの欲は、けど、あたしがあまりに酷いからどうにかしてあげようとした行為でもあるんだろう。
お互い、酔った勢いも兼ねてのもの。でも、決してそれだけじゃないって。
思いやりの上にある行為なら、肯定してもいい?
あたしだって、放っておけない。嫌いで嫌いなあの人を、構いきってしまう。
韮崎はあたしと似ているのかもしれない。優しさの純度は雲泥の差だけど。
なら、その気持ちに添ってみても後悔はしないだろう。
傷付けようなんて、あたしでさえ、思ったことはないのだから。
「韮崎だから、いいと思った。――大丈夫。後腐れは、ないようにするから。出来るから。今日だけ。ただ……初めて……なので、面倒かけるかもだけど、韮崎が嫌じゃ、ないなら……」
けれど……
「小町」
「うん」
韮崎は、
「……やっぱ……俺、無理だわ」
今日二度目の八の字に下げた眉を、一度目よりももっと皺を深く刻んで、あたしを拒否した。
……、
「うん。……ごめんなさい。節操ないこと言っちゃって」
「違うっ」
「韮崎?」
他人が往来する裏道の真ん中で、韮崎は困り果てたみたいに、自分の頭を掻き回した。