瞳が映す景色

「……藁科はいつも冷静だな。テストも上出来。文化祭も難なくこなして信頼度もアップだ。スゴイスゴイ」


「っ、それはっ、好きな人と一緒にいるのに私は普通ってこと? まだ疑うんですか?」


そんなことは言っていない。


「……もし私が、余命いくばくもない、残りの時間を精一杯生きようとする状況だったら信じてくれますかっ? そんなの……っ、あいにく、私はとても健康です。……、片山先生は、私をきっと、疑うことしかしてない」


早とちりはする。冷静でいるつもりだろうがそうじゃない。こういうところは子ども。都合のいいところだけ成長して……年頃の少女はとんでもなく厄介だ。


無言は肯定。藁科はそう解釈したんだろう。


「じゃあ――私に触って下さい。私がどれだけドキドキしてるか、先生が確かめて」


「っ、はあっ!?」


「……嘘です。嘘じゃないけど……。私がおかしくなったら、先生にいらぬ心配をかけます」


「心配、するのか? オレが」


「教師でしょう?」


裏をかかれたような気分になる。なんでオレは、こんなとこで、こんなに狼狽えてなきゃならないんだ。ただただ、今も昔も、日々を普通に生きられるようにとしてるのは、そんなにいけないことなのかよっ。

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