瞳が映す景色

「失恋ひとつで――いや、蔑んでんじゃなくてだな……そのひとつの失恋で、小町がそこまでふらふらになるのが、俺は嫌だ。そうさせる奴が大嫌いだ。俺だったら、小町を雑になんか扱わない。全部忘れない。目の隈が消えない眠れない辛さなんて俺が終わらせてやる。優しくする。ずっと一緒にいて終わらせない。大切に、する」


「韮、崎……」


「って、本当に思った。例え俺のこと好きじゃなくて、今辛いから俺に来てくれたんだとしても、今はそれでいいって」


それはまるで、一晩だけではないみたいに、韮崎は苦しそうに言う。


――『韮崎くんは、誰の頭でも撫でていく人じゃないよ』――


今、やっと、菜々の言葉が頭に浮かぶ。


でも、けどそんなこと……ついさっきまで韮崎は菜々が好きだと思っていたどの口がそんなことを言えるのか。考えてしまう思考回路が腹立たしい。おこがましい。


いたたまれなくなるくらい必死でいてくれる韮崎に、あたしはどうしたらいいんだろう。冗談半分だと思えないくらいに、あたしは自惚れてしまっている。


粟立つ肌と、熱くなる心が、上手く結び付いてくれない。


「なのに、小町は一晩だけと割り切って俺を見た。俺はそれが心底悲しくなった。決意する前の小町は、酷い男のことを話すときと同じ目で、俺じゃない奴を想ってた。好きじゃなくても耐えられるけど、替わりはやっぱ、堪える」


「そんなことしてないっ!!」


そんなことない。韮崎みたいないい人を、あんな最低なのとなんて失礼なこと。


「違う。韮崎だからっ」


けど、あたしは韮崎を傷付けてしまったんだと、ようやく認める。




「――ありがとな。小町は誰にでも誘われる子じゃないけど、俺だからってのは嬉しいけど……。こんな、速攻で意気地無くして、ごめんな」


卑怯この上なく、泣いて謝るしか出来なかった。

< 300 / 408 >

この作品をシェア

pagetop