瞳が映す景色
もう……
「どうしてくれるのよ……」
……これじゃあ、もう……、
美容室からの帰り道。休日の午前中は、あたしたちとは反対に駅へと向かう人が多い。すれ違う際に顔はあまり見られたくない。自然俯くのは、夏の日差しのせいみたいにしてみせた。
視界に入る二人分の爪先は、ゆっくり歩くあたしに菜々が歩調を合わせてくれているのを感じる。
「でも、小町。泣いてないじゃない。ずっと、いつも泣きそうだった、のに」
菜々の言う通り、あたしは何故だか泣いていなかった。あんなに、あんなにあんなに、大切な髪を痛めつけてしまうまでの問題を、それから逃れる方法を失ってしまったというのに。
あたしは何故だかすっきりしてもしていた。
「私の早とちり、じゃ、なかった?」
顔を上げて、そうして隣を見下ろすと、今更なことを訊いてくる菜々に首を横に振る。
「ううん。むしろお見通しすぎて、怖いやら、ありがたいやら」
お互いの強張っていた肩にようやく滑らかさが戻る。
「強引で、ごめんなさい」
「今更。でもありがとう。自分じゃ、止められなかったから」
「前から、おかしいとは思ってたけど、昨日確信したの」
「うん。ありがと。――、あ~あ。でも、これじゃあ、もう……」
すっきりした脳みそでも、それを結論にして、口にするのは、相当しんどい。
菜々の半袖をきゅっと握る。シフォンの生地は柔らかくて、まるで菜々そのものだ。
「小町?」
「……もう、認めるしか、なくなっちゃったじゃない。坊主になってまで、あたしは否定出来ないよ」
「――、うん。私もそこまでしてほしくない」
「好き……にしか、なれなかったよ」