瞳が映す景色

あんなに気持ちが悪くなってしまっていたのは、白鳥さんに苛立っていたからでも何でもなく。


ただただ、あたしが、気持ちを認めたくなかったから。


そんなの……当然じゃない。あんな悲しい思いを、同じ人から二度も味わいたくない。


なのに過去のあたしはそこに引きずり込もうとするし、白鳥さんは変わらず、いや、むしろ今のほうがもっと魅力的で仕方がない。沢山たくさん、白鳥さんを知ってしまった。


生徒じゃなくなったんだから、多少は改心したんだから、以前よりはマシな振られかたかもしれないなんて……今のあたしまでもが傾きかけた。馬鹿みたい。どうせ振られるのに、何だ、その自虐。


どうせなら、何処までも酷い男であってほしかった。一部分だけなんて、放っておけなくなる。そんなの、あたしに見せないでほしかった。覆すなんて、あたしは本気で思えてた? 思えてないから新人に軽く負けたんだ。


あたしだけが知っていることに浮かれ、可哀想で切なくて、あたしごときでも、少しは元気づけてあげられるなんて錯覚させないでほしかった。


会わない日のほうが少なくて、あたしと話すと楽しくて嫌なことも忘れちゃうなんて、言わないでほしかった。


出来ないのに、その柔らかそうな髪を撫でて、抱きしめて、報われなくても構わないから傍にいたいなんて、


思わせないでほしかった。




切った髪に過去の辛さを投影させて、どうにか踏み留まってはみたけど、切る髪が無くなるまでには、恋愛なんかからは抜け出せるかもしれないとしてたけど、そんなの、出来っこなかった。


呪いみたいに、あたしは、白鳥さんに勝手に縛られる。


泣きたくなるくらいに、あたしは白鳥さんが愛しくてたまらないんだ。

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