瞳が映す景色
くらくらする原因がもう分からない。視界は少し狭まり、流れる汗が睫毛に乗る。首筋だけが、粘土で固められたみたいに重くて冷たい。
低くしなければもう紡げない、菜々の声が漏れる。
「……ょ」
「何よ」
「じゃあ、ちゃんとしなさいよ」
「してるわよ。菜々に言われなくても」
「してないじゃないっ!!」
「っ」
「ちゃんとご飯食べてよっ。目の隈も一日くらいなら普通だけどずっとなんてやめてっ。いつもじゃなくてもいいからちゃんと笑って。髪だってばっさり切っちゃえっ。何も話してくれないし心配だしもう……っ」
「菜々には迷惑かけてないっ」
嘘。そんなこと思ってない。
「たとえ白鳥先生だとしても、もし相手が知ったらどう扱えばいいか迷う負担になるようなことなんかするなっ!! 溜め込んだ先におかしな行動ばかりしないでっ!!」
「っ、何よっ!! 菜々はそんなこと出来るっていうのっ!?」
「出来るわよっ!! 私は、報われなかったとしても、バレたら心を傷ませてしまう小町みたいなことはしない。独りでちゃんと泣いて、他はちゃんとしてみせるっ」
「もしもの話であたしに怒らないでっ」
「実践出来てない小町に言われたく……な、い……」
お互いその場で踏ん張っての言い合いは、菜々の気が途切れてそれも途切れる。
「何よ……暑さに倒れるとか言わないでよ」
あたしを通り過ぎ、遠くを視認した菜々が、迷ったのを見逃しはしなかった。
無言で腕をとられ、何かから逃げるみたいに近くの曲がり角に押し込まれ、とある光景を見せられる。
「小町は、……あんな人をずっと好きでいて、耐えられるの?」
菜々が視認した何かは、
「……」
とても仲睦まじく女の人と寄り添い歩く、白鳥さんの姿だった。