瞳が映す景色
あたしは、白鳥さんが幸せでいてくれるのが嬉しい。じゃなきゃ、今までの懺悔が無駄になる。
あの、方向のずれた思考回路もこれでまともになるだろう。食事だって、これからはバランスが良くなる。うちの店なんか必要なくなる。
そのうち、あのマンションから引っ越して、新しい生活を始めたりするのかな。白鳥さんは構わないと言っていたけど、教師を辞めなければいけない事態にならなければいい。
「……大丈夫って言えるのは、小町みたいな状態じゃない人だけよ」
どれだけ訴えても菜々には響かないみたいだ。
「これ以上ないくらいにあたしは平気なのに?」
「そんな傷付いた顔しか出来ないで、それでも好きとか、お願いだからやめて、小町。切れる髪はもうないよ?今度は自分のどこを傷めつけるの?」
伸ばしてきた手はあたしの髪に触れようとしたのか。けど、あたしはそれをかわす。
「そんなこともうしない」
もう、認めたんだから。
「私はそれを信じられない。……ずっと好きでいるみたいな覚悟の顔を、青ざめたまましないで。もう忘れよ? 忘れてほしい。もう決定的じゃない。あんな倫理観外れた人だよ?」
「あたしは菜々が分かんない。誰かを利用しようとしたり、無理に気持ちを弄ろうとしたり。忘れられるかもしれない時間さえも与えてくれずに強引。――忘れられないかもしれない。でも、それって、そんなにいけないこと?」
「小町っ」
「そんな菜々の話はもう聞きたくない。大丈夫なあたしを大丈夫だと分かってくれない菜々なんて……今日はもうバイバイ……」
もう死角を必要としなくなった家までの距離を、あたしはひとり、振り返ることなく進んだ。