瞳が映す景色
……――、
「今日は来ないと思ってた」
「え~、なんで~? そんな邪険にしないでよ」
「してない。休日だし他で食べるだろうと」
「休日だって、僕、結構来てると思うけど?」
その夜、ひとり分の西京焼き弁当を買いに、白鳥さんはいつもと同じ時刻、閉店前の最後のお客様としてやって来た。
「白鳥さんだって、家にご飯がある時だってあるでしょ」
「え~っ、ないない。だって僕んち、唯一のフライパンが壊れてから久しいなぁ。果物ナイフくらいはあるけどね」
だから、今日も食事はうちになったのか。――ああ。でも、なら、あの転がったグレープフルーツくらいは食べることが出来たんだろう。良かったじゃない。人妻自ら剥いてくれた果物なんて、貴重だ。きっと。
「――なんだか、元気がないね?」
色々思い耽っていたものだから、お弁当が出来上がるまでの時間に、テイクアウト用の準備をしてしまった。今日も食べていくに決まってるのに。
「あー……、ちょっと、友達と喧嘩したから。しかもあたしのほうが悪かったりする」
あのあと、菜々は追いかけてくることはなかった。連絡もない。
当然なのに、寂しくなって。
当初よりは冷静になると、謝りたい気持ちは沸いてきた。でもあたしだけが悪いとは思えなくて、嫌な意地も出てきて。
あたしほうが、なんて、当人以外には素直に非を認められるものなんだな。なんて情けない。
「喧嘩って、前に見たちっちゃい子?」
「またちっこいとか言う。……うん。そだね。高校からずっと一緒なんだけど、こんな言い合いは初めてで、どうしたら謝れるか分かんないものだね」