瞳が映す景色

菜々を腹立たせることばかり言いながら、白鳥さんは軽快な足取りで帰っていった。


「……菜々。白鳥さんにさっき何言われたの?」


「……」


言い淀む菜々に、ずっと口にしたくても出来なかったことを。ずっと言いたかった。けど、意地とバツの悪いあたしは、大学で顔を合わせても背け、電話やメールもずっとしなかった。もちろん菜々からも。


「ごめんね。菜々」


それを、こうもすんなり声に出せたのは、少しだけ、白鳥さんのおかげでもあるんだろう。勢いだけ、突拍子もない行動に、毒気も抜け呆気もとられてしまった。


「私も……ごめんなさい」


お互いに、都合のいいことばかり言い並べた喧嘩は後味が悪いばかりだった。


「小町の気持ち、曲げてほしくて曲げようとした。そんなこと、出来るはずないのに……」


「もういいよ。あたしだって酷いこと言ったし、自分のおかしいとこも自覚してる」


「小町」


「だから、もうおしまいにしてくれたら嬉しい。この前のことは」


未だある問題点は、これからは、少しは愚痴くらい吐かせてもらおう。


仕方ないわねと、諦め悪いあたしを、菜々は困ったちゃんと笑っていた。




気付くと時間は閉店をとっくに過ぎていて、菜々が手伝ってくれながら急いで片付けにかかる。


家に戻ると温かなご飯が待っていて、家族全員で食卓を囲む。メニューはハンバーグで、ふと白鳥さんの顔が浮かんだ。もう、食べ終わってるよね。


ソファーでは、菜々が自宅に電話をかけていて、今日は泊まると過保護なお父さんに伝えていた。まだまだ話し足りなくて足りなくて、お互いに別れ難かったんだ。



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