瞳が映す景色
――、
「で、一体何がどうしてああなったの?」
夕食後、さっさとお風呂を済ませて、飲み物とお菓子を用意して自室に籠る。
お泊まり用に常備してあるパジャマを着て、濡れた髪をタオルで丁寧に包む菜々にもう一度訊いてみた。
すると、菜々は小さな声で毒づきながら、白鳥さんなんかやっぱり大嫌いだと震えだす。
「……駅前で、……小町にちゃんと謝ろうって、いつもの如く足踏みしてたら声掛けられたの……」
板チョコを目の前にちらつかされ、あたしの友達かと問われたらしい。
菜々は、突然男の人、しかも白鳥さんから話しかけられたのことの恐怖やら、でも問われたことに律儀に頷いてしまったりと、パニックだったらしい。
「……私のことは、春先が最初だと記憶してくれてたみたいだから、それは良かったけど……とっ、突然バッグ掴まれて逃げ出せなくさせて小町のとこまで引っ張るんだよっ!? ていうか前変装してたのになんで私が分かったの!? バカじゃないのっ!?」
「チョコあげるからって?」
「そうっ。誘拐犯じゃない、あんなのっ。しかもいつから持ち歩いてたんだか。やだっ、このチョコ、ブルーミングしてるじゃないっ」
いったい、いつから。白鳥さんは、ずっと、通勤鞄に数枚の板チョコを忍ばせていてくれたんだろうか。
勝手に想像して勝手に感動するあたしの頬を、いらっとしたのか菜々がつねる。両の頬は、二ヶ月前より肉付きがよくなり伸びがいい。
「いひゃい、れす。ふゅきゃはひはん」
「深町さんだなんて他人行儀――、その翻訳不可能な発音が可愛いから許したげる」
知らない間に罰を与えられ、訳のわからない理由で許され、ぽんと音を立てながら離された頬に、菜々も肉を感じてくれたのか安堵してくれた。