瞳が映す景色

「良かった。それなりに元気そうで」


でも決して、今のあたしの状況に応援ばかりではないのだと言われてしまう。


「ま、――そうだとは思う」


今日で、菜々は白鳥さんを更に警戒してしまっただろうし。


「順調極まりない恋愛のほうが少ないんだし、ままならない自分勝手なものが、やっぱり多いだろうけど……小町には、違っててほしかった。そんなの、私だけで充分なんだから」


ブルーミングしてしまったチョコだとはいえ、食べない選択肢など持たない菜々は、薄い銀の紙を剥がしてふやけた固さを口に含み、もう一枚をあたしに寄越してきた。


分離してしまった味に二人で顔をしかめると、同じタイミングでお茶を飲む。


こくりと、全てを喉下する。




少し、引っかかった言い回しについて問いかけてみた。


「――私だけで充分、って?」


ここのところ、喧嘩はしていたし、あたしが心配されてばかりいたせいで、そういえば菜々を知らない。けど、その言葉と温度に何かを感じた。


ラグの上で膝を抱えて座りながら、はにかみ、菜々は左頬を膝頭に付ける。


小さい身体がもっと小さくなったその姿は、頬が染まってより綺麗だった。


「私も、ままならない人を好きになっちゃったわ」


泣きたくなるくらいに怖がりで、挙動が不審で、お人好しで優しくて、近づいてはくれない人だと、菜々は幸せそうだった。


その姿に思い出す。独りで泣くかもしれないけど、相手が困る自分にはならないと言った菜々――ああ。確かに菜々は、あたしよりそれらが遥かに出来ていて。


けど、独りでは泣いてほしくないと思った。


好きな人を思い浮かべる菜々の表情は今までで一番で。期間限定の決して交差することのない恋だなんて言わないで、あたしは、菜々が幸せになってしまえばいいと願った。

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