瞳が映す景色
――、
「あの人……」
楽しいとりとめのない会話が一旦途切れ、ふいに菜々は漏らす。
顔を見れば、誰のことを指しているのかなんて明白で。
「白鳥、さん?」
一応疑問で返してはみたけど、あたしがその名前を口にするだけで菜々は苦虫を噛み潰したみたいになる。遠慮のない敵意が妙に可愛くて愛しい。
美味しいとは言えないチョコレートは、お茶を飲んでも飲んでも喉が潤わない。また同時にグラスに手を伸ばした。
一口、お茶を飲んであたしはそれを元の場所に戻す。
「菜々?」
菜々は、グラスを両手で握ったまでで何かを考え、そうして、さっき言いかけた続きを呟いた。
「……、あの人……白鳥先生は、本当に人妻が好きなのかな……?」
それは、いつかも投げかけられた内容。
でもなんでだろう。あのときよりも、それは現実味を帯びているのに。架空でもなんでもないと、菜々はあたしと一緒に確認してしまっている。
「敵わないなあ、って思うしかないくらい、白鳥さんは好きなんだと思うよ? ま、勝負なんかしてないけど」
「それは本当だったと信じるとして、今――小町は、白鳥先生が、人妻なんかじゃなくて、小町を好きなんじゃないかって、思ったりはしないの?」
「っ!?」
私は思ったと、菜々は言った。
「あんなに白鳥先生は小町に優しいんだよ?自惚れるくらい恥ずかしいことじゃないって」
「ちょ、ちょっと待って菜々っ」
「何?」
「っ――、思ったことはないし、白鳥さんは人妻が好きだって確かに言ったし言ってるし、あれは、白鳥さんのデフォルトだよっ」
「白鳥先生を知ってる小町が言うなら私よりも確実かもしれないけど……」
「そうだよ」
「……私は、そう感じたの」