瞳が映す景色
「あっ、そうなんだ。後れ馳せながらおめでとうございます」
「あっ、ああ、ありがとう。……てか、髪……あっ、それより風邪大丈夫っ? ごめんね。玄関先だけでも、感染させた……」
とんだ混乱を今年最後にさせてしまったのは、悪いと思いながらも慌てふためく様子が面白くて。
ついつい話を逸らせても忘れずに舞い戻り、他の話題を被せて会話の行き着く先を見失う姿には嵌まりそうだ。
申し訳ないけど、今日はもう閉店準備は済ませてある。明日からの三日間は、お節の仕出しのみで、こっちはお休み。店先のテーブルたちも何もかも仕舞ってしまった。
あとはもう、白鳥さんが帰るだけ。
「もうすっかり元気。友達が長引く風邪患ってたし、そっちのが移ったんじゃないかな。白鳥さんはすぐ治ったみたいだし」
「わかんないよ、そんなこと」
「治癒不可能な病気でもないのに大袈裟。――プリン、ご馳走さまでした。菜々に聞いたら、あのプリン、並ばなきゃ買えないって。病み上がりに馬鹿なことを……でも、ありがとう」
「美味しく食べてもらえたのなら本望です」
質問には今年中に答えてあげて、年を越してもらおう。
「――髪はね、切りたくなっちゃったの。火だるまにはなってないから」
「そう」
「切り替えたいこともあったから気分転換。安直でありきたりだけど、わりと効果あるんだから」
世間で囁かれる馬鹿みたいな噂の、女が髪を切る理由。白鳥さんでもそれは知っていたのか、そんな顔だ。
まあ、その通りでもあるんだけど。
「まあ、こんな髪型、春からは思いきれないし今のうち、ともね。入社式までには伸びてくれるでしょ」
「っ!?」
何故か、息を飲む音が、白鳥さんから鳴った。