瞳が映す景色

……


「……入社?」


「うん。そう」


色々病んだりしながらも、奇跡だけとは思いたくないけど、わりと早い段階で内定を頂戴していた。ありがたいことだ。社畜はないけど、精一杯頑張っていきたい。


「えっ……じゃあ、お店は?」


佳奈ちゃんが言っていた青ざめた顔とはこんな感じだろうか。カウンター越しの白鳥さんは、どうしてそんなふうになるのか、表情は青から色を失くしていく。


ああ。そうか。


それはそれで、呆れもするけど、嬉しいことかもしれない。もしくは寒さからのことなら早く帰らせないと。


「言ってなかったね。ごめん。あたしは二月いっぱいでここは終わり。愚痴とか聞いてあげられなくなっちゃうけど、ごめんね」


「……」


それなりに、あたしの存在意義はあったと自惚れておこう。


「三月以降は、二人とも人妻だけど、白鳥さん手を出さないでね。片方はどストライクかもだから。あっ、もう会ってるか、佳奈ちゃん。若旦那の日もあるよ」


「……僕が人妻だからって好きになるとでも?」


「思ってないよ。冗談。――ほら、白鳥さん。帰らなきゃまた風邪ひくよ」


それはあたしもだ。最大級に短くした髪は、想像以上に頭部を冷やしていく感じがする。ネックウォーマーや他にも防寒をしてはいるけど、師走末の風は耳から凍ってしまいそう。




「……だ」


「何?」


なんでだろう。


「……だよ」


「ん?」


それは、


「……、嫌だ……」


凍える大気よりも、冷たくて痛い声だった。







「白鳥、さ……」


「嫌だっ!! ずっとここにいればいいじゃないかっ!!」


「っ」


自惚れさせてもらった脳内想定は、多少なりとも、いつもの如く我が儘っぽくごねられるもの。


こんなに困らせる白鳥さんは、知らない。

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