瞳が映す景色
「ちょ、白鳥さんっ」
往来を歩く人の姿はない。慌てて後ろを振り返れば、もう兄の気配もなく。飛び出してこられたら面倒だからひとまず安心する。
まるで駄々っ子。こんな子どもをスーパーのお菓子売り場で見かける。いきなり声を荒げた白鳥さんは、そんな感じだった。
どうにもならないことなんて、あるって、知ってる大人。
「ごっ……めん」
「ううん。ちょっと驚いただけ」
大人は、少しばかり我が儘してみたくなっただけなんだろうか。
もうすぐ、最後なのだし。
恥ずかしいのか、その鼻が赤かった。
「……経営難なの?」
しばらくのあと問われたのは、また想定外なことだった。纏う空気は納得など出来ていないみたいで。
次はどう出てくるのかしんと待つ。
何故か白鳥さんの拳はきつく握りしめられている。綺麗な手が勿体ないじゃないか。もうそのまま固まってしまいそうなくらい、きつく。
「経営苦しいから、外で稼ぐとか……? 僕が貢献するくらいじゃあ……足りないとは思うけどもっと。他にも出来ることは……」
「何それっ。出稼ぎ的な? っ、ないない。うちの社長と若旦那、従業員の方々の手腕を舐めないで。経営難なら白鳥さんくらいの貢献じゃあ足りないし、今で充分ありがとうだよ」
「僕は自営の家じゃないからよく分かんないけど、普通は、こうして家族で働くんじゃ。……君の、立場上なら、それになると」
「一概には言えないかな。――あたしは、もうずっと前に話し合って、家業には深く入らないって決まってるの」
「そう――」
「けど、非常時には手伝うし、ご近所は今のとこ変わらないんだし、よろしくね」
君、だって。また。白鳥さんがあたしをそう呼ぶのは二度目。決して、あたしの名前をその口では紡がなかった。