瞳が映す景色
これほどまで落ち込まれるとは思わなかった。友達少ないから、あたしみたいな相手が一人減るだけでもずいぶん寂しいのかな。
ゲンちゃんがいるから大丈夫だよ。あの陰気な様子は更正の余地ありだけど、少なくとも、白鳥さんを傷つける人ではないと思う。
「そっか」
「うん」
カウンターに一歩歩み寄る白鳥さんは、ようやくお弁当を受け取ってくれた。渡す際に開いた手のひらの内側には、相当食い込んだのか真っ赤な爪痕があって。
爪でつけられたものじゃなかったのに、もう消えてしまった鎖骨の少し下の痕を思い出し、背筋がぞくりと粟立つ。
硬貨を摘まむ指が震える。あんなに普通に話せていたのに、急にどうして。
きっと、距離が近くなったからだ。いつものお会計よりもそう感じるのは、あの夜を思い出してしまったから。
「あ……っ」
「危ないよ」
「ありがと」
お釣りを落としてしまいそうになったあたしの指が、一瞬白鳥さんに包まれそうになったけど、それは勘違いで華麗にお釣りだけ空中でキャッチされていった。
「――色々、もう仕方ない? 決めたことだもんね」
「うん。決まってた、ことだよ」
「他のことも、その髪も。全部、――どうやって、いつも決断してるの?」
「えっ……どうやってって言われても」
白鳥さんの目は少し細められていて、いつもと違う妖艶さを醸し出していた。
その瞳に見つめられると、いい感じの適当な返答など思いつかず本音を漏らしてしまうのは、あたしの弱味。
まだ吹っ切ろうと決めたばかりの、あたしの。
真実でもこれはいいや。答えても、支障はないこと。
「ご飯も食べられなくなり、眠れなくなるくらい迷って迷って、そうしてあたしは決めるのですよ。白鳥さん」