瞳が映す景色
だからそんなに痩せているのだと、冗談混じりに怒った口調であたしを責める白鳥さんに、もう数秒前の妖艶さは無かった。
「そんな悩みかた、苦しくない?」
「あたしはそれしか出来ないから」
「そっか。――なら、もう引き下がるしかないね」
そうして、納得はようやくしてもらえた。
「あーあ。お腹空いたかも。お蕎麦は美味しいだろうな」
「ちゃんと食べるんだよ。悩んでばかりで、すぐに痩せてってしまうばかりだから」
「そうでもないよ」
「少なくとも、もう僕は迷惑をかけないから、思う存分美味しく食べてしまえばいい」
「白鳥さんから迷惑はかけられてないよ」
「――、そう?」
「うっ……少し、だけ?」
親指と人差し指の腹を合わせて僅かに隙間を空ける。その間から覗いてみれば、白鳥さんは少し嬉しそうで、少し、その眉は下がっていた。
「よいお年を。白鳥さん」
「うん。よいお年を。――また来年」
「来年も通ってくれるんだ。ありがとうございます」
「当然だよ。それはもう、ね。虜ですから。味わいの」
それじゃあ、と白鳥さんは向かいのマンションへ。あたしはレジ周辺の埃を最後に拭きあげ、年内の業務を終了する。
「――、……」
今日の白鳥さんは、いつもと様子が違っていた?
迷惑をかけた先の人間に、加えて風邪まで移してしまったとか、気にしすぎたのかな。会話の噛み合わせがいまいちだったのは、あたしの後ろめたさかもしれないし。
以外の要因もあるのかもしれないけど。
けど、
もう、そういう、白鳥さんのことに、あたしは、翻弄されなくてもいいんだ。
やめる、のだから。
すると卑怯にも、気持ちはずいぶん、穏やかでいられた。
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②ー9・良薬口に苦し
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