瞳が映す景色
もう大学に向かう用もあまりなく、卒業旅行も大人数での日帰りのみだったものだから、途端にすることのなくなってしまったあたしは、ただただ怠惰に時間を過ごして。
そうして、卒業式を迎える。
「エエーッ、菜々帰るのっ!? お茶とかしてこうよ。最近どころか、ずっと忙しいって遊んでくれなかったから寂しいじゃんっ」
「ごめんごめん。今までもごめんって。でも今日もやっぱりちょっと……。けど、自分だって彼と待ち合わせでしょうよ。そんなんじゃ、私そのあと寂しくなるもん」
「え~っ、そんなぁ。幸せ分けたげるぅ」
「……ちょっと、さっきから分け与えられてるあたしは、そこに幸せを感じてないけど? 寧ろ心が吹きすさぶわ……」
「小町ったら~、そんなことないもんっ」
式典後の菜々の予定ははっきり聞いておらず確認すると、もう向かう場所は決まっていた。なんとなく、行き先の浮かぶあたしをよそに、もう一人の友達はハイテンション。自虐な嗜めは効果的じゃなかったみたいだ。
「とりあえず別の日にね。バイバイ」
「うん。謝恩会には一緒に行こうよ」
「そうだね。じゃあ、顔は浮腫まないよう気をつける。小町もね」
「っ、あたしにそんな懸念事項はございません」
「卒業式は、鬼門よ? 気をつけて」
不吉な言い回しを緊張した面持ちで告げ、菜々は大学を後にした。最後なのだと、あたしと同じことを言う菜々の小さな背中に、どうかどうか、違う未来を願った。
「さ、小町、プリクラでも行く?」
「写真撮ったじゃない。散々」
「小町のその似合わないリボンを画像に刻み込みたい~っ」
「……」
二ヶ月でそれとなく伸びてくれたあたしの髪には、袴とお揃いの大きなリボンが面白く乗っかっていた。