瞳が映す景色

頭を除けば、まあそれなりだと思い込んだ卒業式の袴姿は、けど、レンタルを嫌がった母が袴を注文する際、同じ布の端切れを貰いリボンを作ってくれたものだから……。さすがに、外せなかった。赤だ。赤い色が滑稽具合に磨きをかけるんだ。


ちなみに朝、家族はあたしの姿に絶賛だった。ただの親バカ的なものとわかっていながらもホイホイ舞い上がり大学まで。着いて外すと髪にヘアピンのくせがついていて、リボンは乗っけておくしかなくなった。


思い出となる卒業写真を、未来のあたしはきっと、羞恥に耐えながら眺めるんだ。


謝恩会は後日。今日は夕方から飲み会があって、それまでは手持ちぶさただからプリクラなんて提案が出たんだろう。……可能なら避けたい。


「小町~っ。ちょっとちょっとぉ」


「っ!! すぐ行くっ」


ぼうっと佇んでしまっていた。慌てて走り寄ると、願いは通じたのか友達の彼から連絡があり、待ち合わせが早まったと遠慮がちに言われる。


「ごめんっ。ホントに」


自分が連れ回そうとしていたのに、というばつの悪い顔に、仕方ないなあとわざとらしく笑い、危機は免れた。




時刻は午後一時。


卒業祝いに兄夫婦から貰った腕時計に目をやると、ひとりで潰すには余りある時間。誰かしら誘えばいるけど、なんだか面倒だ。


埃の混ざった風が吹きくしゃみが飛び出た。まだ冷たさのある春風を追うように首を反らせると、ぼんやりと霞がかった弥生の空。太陽も淡くこちらを照らしている。――天気予報は、明日は雨だと言ってたっけ。


袴で飲み会はキツイし着替えを忘れた。そういえば、朝は遅刻しそうで兄とは写真を一緒に撮っていなかった。店にも顔を出してほしいと長く勤める従業員さんにも言われていたからと、あたしは足早に駅へと歩きはじめた。

< 349 / 408 >

この作品をシェア

pagetop