瞳が映す景色
時刻は午後四時。
今日は空港近くのホテルに一泊して、明日の午前中の飛行機でパリに飛び立つらしい。
自宅玄関前は狭く、兄が駐車場からワゴン車を回してくる間に店のほう、表へと向かう。
あたしもいつも使っていた通用口からトランクを運び出して待つと、ほどなくして兄が到着。お店は臨時休業としたから、いつも出している簡易食事スペースは片付けられていて、その空間にワゴン車を半分滑り込ませてきた。
「小町ちゃん。お土産期待しててね」
「モナリザのマグネットがいい」
「あら。またベッタベタなものを」
「高価なものとか、考えなくてもいいからね?」
そんな計画を立てているらしい佳奈ちゃんに釘を刺す。新婚旅行をこんな形にしてしまい頭が下がる思いなのにお金まで使わせられない。パリで兄にとんでもなく甘やかされればいいと、再三訴えたことを念押ししに行くことにした。
三列目の後部座席をフラットにしている兄に進言すると、言われなくても分かっていると一蹴された。こういう、対外的に大切にする部分を出す夫婦には憧れるな。
「楽しいご旅行を。忘れ物あっても、空港までなんて届けにいかないからね」
「……、あっ……」
あれだけ確認していたのだから大丈夫だろうと冗談半分のからかいに、兄は反応をしてくれてしまった。
「ケータイ忘れた」
「海外で使えるようにしたっけ」
「駐車場の予約確認メールとか入ってるし一応。小町、取ってきてくれ」
急いでリビングにあったスマートフォンを握りしめて戻ると、兄は家族以外の誰かと立ち話をしていた。
「お兄ちゃんっ」
あたしの声に驚いたのか、誰かは自分の鞄を足下に落とす。
「すっ、すいません…………っ!?」
「いや。大丈夫だよ」
それは、
久し振りに見る姿。
立ち話の相手は、白鳥さんだった。