瞳が映す景色
「小町、すまん」
「っ、別に。――スマホの隣に、旅行会社からの紙があったけど、あれはいいの?」
「っ、……それもだ。小町?」
「……、了解」
大丈夫だと言ったきり、白鳥さんは何故か兄を凝視していたものだから、挨拶をするでもなく、放っておいてまた家に戻る。
二週間も、経ってはいないのに久し振りだと感じるのは、まだまだな証拠かもしれない。そんな程度じゃ変化なんてないに等しいのに、あたしはそれを探してしまった。
注意事項や提出しなければいけないみたいな用紙一式を、ばらけてしまわないように茶封筒に収める。トランクには仕舞えない類いのものをリビングのテーブルに置いていたらしく、もう他にはないことを最終確認してから店先に向かった。
「妻です。そして後部座席の二人が小町とオレの両親」
「っ!! ですよね……はじめまして」
場は、何故か挨拶合戦が繰り広げられていて……。
そして、
「……お兄ちゃん? 白鳥さんも……どうかした?」
すがりついていたのだ。白鳥さんが兄の腕に。
凝視も訳が分からなかったけど、今度はまた何事か。落とした鞄は放置されたままだし。
あたしが視線を寄越すと、白鳥さんは鬱陶しそうにする兄からようやくその手を放した。
書類を受け取った兄は、助手席の佳奈ちゃんにそれを渡し、運転席に乗り込む。
「――ああ。白鳥さん」
「っ、はいっ」
「今度お見せするよ。あれ」
「いえ……それには及びません」
「はあっ? 何あれって」
「小町、当分独りなんで、良かったらご飯でも誘ってやってよ。寂しいやつなんで」
「っ」
「お兄ちゃんっ!?」
「じゃあな、小町。行ってくる」
疑問には答えず、勝手爆弾を投下して、一家を乗せた車は笑顔で去っていった。