瞳が映す景色
……
……
兄たちの車が見えなくなるまで、白鳥さんもあたしもその方向を並んで見送っていた。
「――、お兄さん……」
言ったきり、沈黙する白鳥さんが奇妙で不安を覚える。さっきのあれこれを聞いてみたいけど、情けない場面のことなど答えてくれないかもしれないし、面倒かも。
帰ってきた兄にでも訊ねればいいや。
「お兄ちゃんたちね」
「うん」
あたしが呟くと白鳥さんの声がすぐ返る。懐かしく感じてしまうなんてまだまだ馬鹿だなあ。
「あれ、新婚旅行のはずだったんだよ」
「そうなんだ」
「なのに、いくら妻がいいって言ってくれても、親一緒なんてないよね、とあたしは今でも思ってるんだ」
「そっか。――同じ轍を踏まないよう、僕は心にしっかり留めておこう」
「白鳥さんの場合はそこまで到達出来るかどうかじゃない? そういえば、今日は早いんだね」
「そう難しくはないかもよ? 今日は、春休み中だし早いんだ」
「そうなんだ。――じゃあ、寒いしそろそろ……っ」
「うん?」
寒いし、と言った時点で我に返る。あたしは、部屋着ワンピに毛玉レギンス、分厚い靴下に、……ブラなどしていなかった。いくらショールを羽織ってるとはいえ、これは人前に出る格好じゃない。開放的すぎる。
「じゃあ、これで」
そそくさと店内に引っ込もうと白鳥さんに背を向けたころ、
「ん?」
そういえば、さっきも了解ではなくて疑問の言い回しだったと思い出した白鳥さんの声とともに、肩をがしりと掴まれた。
「えっ?」
疑問で疑問に返す。
「お兄さんもああ仰ってくれたことだし」
「……」
「ご飯、行こっか。――もうこのまま出ても僕は構わないけど?」
極上の笑みとともに初めて感じる圧倒的威圧は、普段の我が儘よりも遥かに有無を言わせないものだった。