瞳が映す景色
駅を横目に通り抜けて、普段車で通過してただけの大きな通りは、よく見ると隠れ家みたいなお店が路地を一本入ったところに点々としていた。
目的地のイタリアンもそんな一軒で、地図を一度見ただけで着いてしまい、そのことに感心したまま店内へ。
感心していたものだから、白鳥さんが店のドアを開けてくれたことや、予約していた旨を店員さんに伝えていたこと等、手際のよさに気付くのが遅れ、お礼とか、タイミングを逃してしまった。
ほわりと暖かな店内は、奥にあるピザ用石窯の熱が回っているのか、小麦のいい匂いがする。
お昼のオムライスは小ぶりだったから、美味しい匂いに途端にお腹は空いてきた。
席に着いて出されたのは炭酸水で、他の飲み物を頼もうとしたら、白鳥さんからワインを勧められる。
「甘そうなのもあるよ。サングリアとかも」
「あたし、ワインは苦手なんだ。白鳥さんは気にせずどうぞ」
「ん~。一緒にならと思ったんだけど。なら僕もいいや。でも、ワインはって、結構呑めるんだ」
「嗜み程度に」
「大人~っ」
もう、こんなに絡むことはないと思ってた。
楽しいと感じるのは、あたしが以前と何も変わっていないのか、違うからこそなのか――とりあえず白鳥さんは変わらないなあ、と懐かしむ。
店内なら、多少はしゃいでもいいかと気を許すと、感じていた遠慮は一口目と一緒に飲み込まれた。
簡単なコースの他に、自慢だとメニューにあったナポリピッツァを白鳥さんは注文していて。厚めのモチモチした生地に完食を危ぶんだけど、白鳥さんが半分以上平らげてくれ、感謝する。可能なら残すのは避けたい。
控えめな照明の店内。お酒を呑んでもいないのに陽気な夕食会は、気付いたら二時間も経過していた。