瞳が映す景色
知る限り、
白鳥さんは、誰にでも、深部まで踏み込ませないし、踏み込んでいかない。
なら、この、距離の意味は……。
「嫌がることはしたくないけど、もう、禁欲的に、触れては駄目だとか思いたくない」
記憶の限り、白鳥さんに触られているなんて、今日が初めて。
それはつまり……。
「勘がいいとは言わないけど、鈍感ではないよね?」
知ったのは今日だと、逃げ場をなくされた。
「ねえ――手が熱くなってるよ?」
感情を押し込めることは出来ても、体温を操ることは不可能で。指摘されると、それは途端に、更に上昇する。
逸らせても、視界の端には甘くて真剣な表情が映りこむ、勘違いだとさせてくれない至近距離。
朧な月夜の明かりが押し付けがましい手助けをしてくれ、屋内でも細かく視認出来るなんて……世界の理を恨んだ。
「人妻……っ、いたじゃない。あたし見た。指輪、してた。腕、組んでた……」
意識をしてしまっている。
けど、あたしじゃないと警笛が痛いくらいに鳴り響く。自惚れるな。勘違いだ。
「ああ。あれは、テンプレな回答で申し訳ないけど、妹だよ。双子の。結婚したって話したね」
「嘘っ。似てないっ」
「二卵性。――ねえ、僕と妹が一緒にいるのを見て心が軋んだから、さっきあんなこと言ってくれた?」
「っ!!」
悔しい。悔しい悔しいっ。能天気に色々訊ねてくるなら、そこには何も含ませないでっ。涼しい顔されていた今までの長い長い時間、一体幾つ、あたしは気付きもしないで……。
棚上げだな。馬鹿みたい、あたし。
あたしはどれだけ、白鳥さんにさらりと嘘をついてきたというのか。
でも、止まらないんだ。この馬鹿げた否定の言葉の羅列は。