瞳が映す景色
「あたしは……白鳥さんを翻弄なんてしてないし、無表情だけどクールじゃない。それに……っ」
「ああ。そんな細かなことまで覚えてくれてるんだ」
「っ」
「前、言ったろ? 表情乏しくなんかないって。そりゃあ、少し気付きにくいのは否めない。――ねぇ、それをひとつひとつ、理解出来るようになっていく過程の僕の幸せな気持ちったらないんだよ」
「……指……綺麗じゃないし……っ、先が、触れたことなんてないっ……」
「お釣りを渡すときに三度ほど。――綺麗だよ」
「だったら触るの初めてじゃない、よね?」
怒ったみたいに、あたしの手首を掴む指に力が籠った。
「あんなのノーカンだよ。そこに意識がなかったんだから。でも、必要なら、どんな形にでも訂正する。こっちは必死なんだ」
白鳥さんは一体どうしたいんだろう。さっき、そう考えていた。
でも今は……
……あたしはどうしたいんだろう。
過去の言葉と今の擦り合わせなんて無駄で、何を言っても揚げ足を取られる。ついに口ごもるあたしを、白鳥さんは次第に袋小路に叩き込む。
「そうだ。――韮崎って、誰? ちっこい子の彼氏じゃないなら何?」
「とっ、友達……」
「ふうん」
「白鳥さんには関係ないっ」
「あるよ。だって僕は――」
「っ、言わないでっ!!」
なんでこんなに気持ちが悪いんだろう。好きな人が自分じゃない好きな人を話しているときのほうが楽だったなんてあたしは。
好きな人って何? あたしは全く忘れられていないの?
もう捻くれすぎて正解が分からない。
でも、白鳥さんから『それ』は聞きたくないんだ。
その口を塞いでしまおうと空いているほうの手を伸ばす。
けれど、行動は難なく阻止され、決定打はなされてしまった。
「――君が、好きなんだ」