瞳が映す景色
……………………
「……あたしは、好きじゃない」
悲鳴になりそうなのを抑え込み、まるで地獄の業火のように絞り出す。
「嘘だ」
「自惚れもいいとこ。恥で死ねばいい」
食い縛る歯をゆっくりと開いて、低い低い恨みの言葉を口にする。
勝手だ。本当に全部。我が儘で都合のいい解釈ばかり。
勘違いだったとはいえ、思い返せば、あれは、秘めても何もいない。ずっと放してもらえていなかった。あんなの、お兄ちゃんが本物の旦那だったら殺されてる。
「好きだ」
「信じない。さっきから手が痛い。労ってくれない人のそんなこと、信じない」
言葉は力だ。声は、実現への道のりを切り開く。だから、信じない。
感情の昂りと連動しているのか、あたしの手首を包む白鳥さんの手は、時折痛くて。そして、緩み。
ごめん。でも放したくない、と、俯くあたしの後頭部に切ない声が降ってくる。
「やっとこうして触れられるんだ。会えるなら、それがまだずっと続くならいいって思おうとした。けど、そうじゃない。足りなかった。この数日気が狂いそうだった」
「……」
「一度、映画館で偶然会えて、引き留めて、君も楽しそうで、慰められて、舞い上がって。あの時だってこうしたかった。――ねえ、一緒に歩けたことや、電車の中で、潰されないように守ってたとき、本当に幸せだった。……終わりさえ、なければね」
着いた先の改札口。思う心は、同じだったんだ。
わかってしまっている。白鳥さんが嘘でないことくらい。
「あたしは、好きじゃない」
だからあたしは言霊を吐くんだ。
「なら……」
「な、によ」
「……なら、どうしてあの夜、キスを拒まなかったの?」
「っ!?」
「僕は、全部覚えているよ」
あの夜なんて、
たったひとつだ。