瞳が映す景色

躊躇う様子は、やけに長く感じた。


白鳥さんは顔を俯けたり左右にしてみたり、しながら、あたしから精一杯その表情を見えなくさせて、


「…………だって、恥ずかしいじゃないか……」


中学生みたいな訳を白状した。




「っ……」


なんて――


「そっ、それにっ、……名前なんて呼んだら歯止めが……それをしちゃいけない人だって、ギリギリで踏みとどまる方法はそれしか……」


表情を隠す反動で耳は完全に晒されていて、きっと、照明の下なら真っ赤なんだろうと思い確かめたかった。それを見たい。でも、あたしは見てほしくない。


あたしもきっと、負けないくらいだから。


――ああ。なんて、愛しいんだろう。


本当にどうしようもない大人だ。子供みたいに我が儘で知らず恥ずかしがって。あたしに内緒で勝手な行動ばかり。


でも、愛しい。あたしはまだ、好きで好きで、仕方がないんだ。


「名前で疑われるなら、もうちゃんと呼ぶよ。これからも至らないところは直していく」


「……」


「だから、認めてよ。眠れなくなるくらい迷って迷ってなんて、もう絶対にさせない。あれは僕のせいだと思ってもいいよね。僕以外だなんて嫌だ。好きでいてくれるから、苦しめてた」


「……」


「ご飯が食べられなくなるなんて、ならないように誠実でいる」


「……」


「信じてもらえないなら、どこが好きか、どうしてだとか、いつだって言っていくから」


「……」


「頑ななのには何か訳があるの? 長い時間がかかってもいい。一緒に、解決させてほしい。――だから、お願いだから、どうか、僕のものになってほしい」




嬉しい。大好き。愛しい。


けど、同時にとても気持ちが悪い。


そんな相容れない感覚が同時にあるなんてこと……

< 367 / 408 >

この作品をシェア

pagetop