瞳が映す景色
……いや、違う。そんなきれいごとは。
欲しいのは、唯一というあたしにだけの感情。でも、あたしじゃなかったとしても向けられたかもしれない今を、許容出来ない。
そんなものはいらない。
そして、過去があるかぎり、あたしは、どれだけ違うと言われても頷けないんだ。
変わらないあたしを、どうして白鳥さんは好きと言うんだろう。生徒だからという理由だけであそこまで追い込む白鳥さんの好きを、信じれば信じるほど、あたしの心は分裂していくだけ……。
謝られないのは良かったと思う。それが、誠実かなんてわからないけど、何も知らないのに頭を下げられるなんて真っ平だ。
「――それでも僕は、一緒にいたいと思うよ」
それでも告げられたのは、そんなこと。
もう吐き出したのに、言ってしまったのに、気持ちは全く治まってくれず、あたしは膝の力を無くしてしゃがみこんだ。
嫌だ。まだ吐いてしまいそう。気持ち悪い。三半規管を捻られたみたいで視界が歪む。
「……っぅ」
「大丈夫っ!?」
労るみたいに、捕まえていた手を解放し、白鳥さんは、玄関の冷たい床に横たわりそうな勢いのあたしを一緒にしゃがんで支えてくれた。背中に手を回して撫でてくれるものだから、抱き締められているみたい。
口を両手でやっと覆える。ギリギリ耐えていた嘔吐感を、手のひらの中に吐いた息と共に胃に戻し、気丈を振る舞う。
「……――白鳥さんは、あたしといたいの?」
背中にある大きな手がびくりとした。
「うん。いたいよ」
「あたしが、欲しいの?」
「欲しいよ」
「そっか。なら――」
――あげる。
と、冷たい床に白鳥さんを押し倒す。
けれど上手くいかなかった。
両手を後ろ手にバランスをとった白鳥さんの足を跨ぎ、あたしは、そう耳許で囁いた。