瞳が映す景色

想像上の、煽る精一杯の行動で誘惑する。声は、可能な限りに媚びた色をつけて。移す目線にも、下品ないやらしさを。


「この前の続きしてあげる」


「っ」


吐息みたいに囁くと、あの柔らかな髪が顔をくすぐった。


肩に手を置くと、そこの筋肉が強張った気がする。


身体のバランスを整えた白鳥さんが、少し動いたあと、ゆっくりとあたしに触れようとする気配を感じた。


だから、その前に、


「あたしなんか、全部あげる。――でも、ずっとは、あげない」


宣言するんだ。




「……どうして」


案の定、白鳥さんの腕は行き場を失った。


「だって、あたしを楽にしてくれるんでしょ?」


「それが、こうすることだって?」


可哀想な白鳥さん。そんなに傷んだ声を出すなんて。


くすくすと、あたしは軽薄に笑う。浅はかでもいい。今が、過ぎてくれるなら。


「だって、ずっとなんて耐えられないもん。けど、こういうこと出来るくらいには――ね? 白鳥さんだってあたしが欲しいなら、来てよ。時々なら、あたしなんか、全部あげる。でも、ずっとなんて死んでも嫌」


通りすがりに袖が振り合うみたいに、形のいい耳朶に唇を滑らせた。


「やめてくれ……」


声くらい上げてくれたほうが可愛げがあった。けど、狼狽えさせられたのは一瞬で、拒絶に迷いはなかった。


「そっか。残念」


「そんな全部は要らない。全部なんて言わないよ。僕が欲しいのは、本当の全てだ」


あたしが怯えてるものを欲しいだなんて、白鳥さんは案の定、やっぱり我が儘な人。


だからあたしも、虫酸が走るくらいの我が儘を。


嫌悪して。罵って。あたしを嫌いに、なって。


「なら、もう白鳥さんなんか要らない。もう、白鳥さんのせいで落ちる体重も、切る髪も、傷む心も、涙も、生憎あたしは持ち合わせてないの」

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