瞳が映す景色
駅の改札を抜けた地元の見慣れた景色。週末だからか人は多いような気がする。向かいに見えるファミレスも、八割程席は埋まっているみたいだ。
会社を出たときの霧雨は、いつの間にか強さを増していて、落ちる雨粒の筋も難なく確認出来る。
家まではそう遠くない。開いた傘を真っ直ぐにさして歩き出した。
――……
もう閉店しているウチの店の前を横切り自宅玄関へ向かっていると、お向かいのマンションの入り口で、一台のタクシーとその運転手さん、そして可愛らしい声で慌てふためく女の子が、何やらこちらにも響くトーンで話していた。
もうすぐ来ますと女の子が言うと、運転手さんは自分も手伝おうかと申し出ていて。傘もなく、ふたりはその場でマンションの入り口の奥を何度も確認している。
少し、気になってその様子に目をやる。けど、雨で視界は健やかじゃない。
どうしてそんなに立ち止まっているのか、あたしは。ついそれらに目を奪われてしまっていて。――数分後、男の人がひとり、小走りでマンション内から出てきた。
男の人は女の子に駆け寄り何か話していて、けど、すぐに女の子が指差し、男の人がそちらに振り返ると、慌ててまたマンションに戻っていく。
視線で追うと、マンションの入り口にはもうひとり別の男の人が、そこには踞っていた。
元気な方の男の人が踞る方の男の人を支えて、二人は立ち上がり、大丈夫かと気遣ったみたいに見えるやりとりをしてから、ゆっくり歩き始めた。
心配にはなったけど救急車は呼んでいないし――だからあたしは、その一部始終を他人事として眺めていた。
けれど……
「……っ!?」
その光景は他人事ではなくなる。確認してしまったその中には、愛しい愛しい人の姿が。
傘もささずにタクシーへと歩く人たちのところへと、駆け寄った。