瞳が映す景色
――
病院の夜間出入口にタクシーが停まると、助手席ですかさず支払いをする。その間に、ゲンちゃんかもしれない人に車椅子を念のため借りてきてもらった。
後部座席では、さっきまで様子を見続けていたときと同じに、白鳥さんは浅い寝息を立てている。
たった数分に焦れていると、院内からゲンちゃんかもしれない人が戻ってきて、タクシーの運転手さんも手伝ってくれながら、白鳥さんを座らせた。
「……歩ける……」
「その気力は帰りまで温存しといて下さいよ。今はそれ面倒だから」
「酷、い……」
目は、閉じたままだ。意識が覚醒したばかりの中、少しの抵抗で立ち上がろうとしていたけど、健康体の男二人に敵うわけなく、白鳥さんは車椅子で運ばれていく。
運転手さんにお礼をしてから、あたしも荷物を引き受けて、気付かれることなく、後に続いた。
ゲンちゃんかもしれない人は、白鳥さんを先に処置室に放り込んでから、受付や看護師さんとのやりとりをスムーズに進めていく。
「そこで待っていてもらえますか?」
「……はい」
やっぱりあたしは要らなかったと後悔しながら、ただ荷物の番をするためだけに、待ち合い席の端のほうに腰を下ろした。
昼間は人で溢れているだろう待ち合いの場は、あたしが座っているだけで。まるで世界に置き去りにされてるみたい。
救急の処置室からもっと響くと思っていた器具を使用する音や、様々な気配はあまりなく、今日は重症搬送等はないんだろうか。
独特の静謐は、状況さえ違っていれば眠れそう。
そんなこと、出来るはずもないんだけど……。
――……、
「大丈夫ですか?」
「……あっ……ゲンちゃん……」
いつ近くまで来たんだろう。ひとつ飛ばした隣の席には、あたしにゲンちゃんと呼ばれ驚いた表情のゲンちゃんがいた。