瞳が映す景色
「……白鳥さんが言ったんですか……その呼び方……」
「すっ、すみません……。お名前それしか知らなくて。ってそもそもゲンちゃんじゃないかもしれなかったのに失礼しました」
「いえ。合ってます」
それで呼ぶのは白鳥さんだけなのだと羞恥に耐えかねるといった表情で、ゲンちゃんは自分を片山だと自己紹介してくれる。
「宇佐美です。白鳥さんのマンションの向かいでお弁当の店が家で」
「ああ。白鳥さんの食の中枢」
「はっ?」
「て言ってました。オレも、一度だけ店の前まで行ったことあります」
「はい。――っ、それより白鳥さんは容態は?」
大丈夫、なんだとは思う。今日の症状に関しては。でも、やっぱり心配は心配で。
「大丈夫ですよ。白鳥さんはね……」
あたしのところに来る前に買ってきたのか、温かな缶コーヒーをゲンちゃんは渡してくれる。まずはそれでも飲んでと心配されたのは、あたしの顔色で。ほのかな温もりさえ沸点みたいだと感じてしまう自分の指先に、今さら驚いた。
すぐには喉を通らなそうだと、しばらく真冬のカイロみたいに缶コーヒーを扱う。
見ると、ゲンちゃんも同じく飲まないまま、何故か頭を抱えだした。
「大丈夫ですか……?」
言いづらいのか。呆れているんだか笑ってるんだか、肩を震わせる様子を、しばらく待った。
「すみません。あ、いえ……白鳥さん、もう中で目も覚めていて……」
軽い脱水症状に胃の荒れ、睡眠不足だと診断された。足りないものだらけで、断続的に続く目眩を起こしていたらしく。軽いものだとしても連れてきて良かった。
「っ、良かった」
「……」
そうして、これを言い淀んだんだろうと、聞いたあとにあたしも頭を抱えた。
「……診断書に、恋の病と書いてくれとせがんでいます……多分、今も……」