瞳が映す景色
……形容し難い雰囲気から、ゲンちゃんもあたしも上手く抜け出せず、深く大きな溜め息を吐いた。
「馬鹿ですね」
「そうですね」
そして、今ここに生まれる連帯感。
心配は安心に変わったけど、すぐさま脱力感が支配する。
ようやく緩んだ肩や背中の筋肉に、それらが強張っていたんだと気付いた。
「そっか。良かったです」
ならば、あたしはもう要らないだろう。
元々そうだった。
「じゃあ、あたしは帰ります。コーヒーありがとうございました。これで足りますか?」
「勝手に買ったものですから、受け取れません」
「――、はい。ご馳走になります」
立ち上がり、リノリウムの床に小さく靴音を鳴らせた。
外の様子は、ここからじゃ分かりづらい。雨はまだ降り続くかもしれない。
ゲンちゃんがどのくらいここにいるのかは知らないけど、もうしばらくはそうしているだろう。
「傘、これを置いていくので使って下さい。あたしは予備ありますから」
少し離れた場所で、兄にでも車で迎えにきてもらおう。適当な嘘で場を流そうとした。
「あっ、ちょっと待って下さい」
「……」
いつか見たゲンちゃんは陰気臭くて、こうもきちんとしている人の印象はなくて、
「オレはもう帰るので、宇佐美さん、白鳥さんについていてあげて下さい」
「はっ?」
こんなに、わりと強引で、はっきりと伝えてくる人だとは思わなかった。
「申し訳ないんですが、ただの不摂生の友人よりも、聞き分けの悪い彼女の方を優先したいので」
「ちょっとっ!!」
「それに、白鳥さんにはオレより最適な人が、あつらえたようにいてくれることですし」
横暴な人だとも思わなかったゲンちゃんは、
あたしを、ただの知り合いだとは思っていなかったみたいだ。