瞳が映す景色
「あっ……あたしっ、用が……」
「なら、気にせず白鳥さんは捨て置いて帰って下さい。――オレもそうしますけど」
「っ」
やっぱりゲンちゃんは好きになれないかもしれない。藁科さんは、この人をどうして蕩けた視線で見つめていられるのか。あんなに可愛いのに勿体ない。
ゲンちゃんは自分の鞄を抱え、本当に帰ろうとしていて。
「あとは会計くらいなんで、本人にやらせればいいですし、タクシーくらい呼べるでしょう。行きの料金は、白鳥さんから徴収してあげて下さい」
「友達ならもっと心配してあげて下さい……」
「充分、常識の範囲内でしたつもりです。足りないと感じる人がいるとしたら、よっぽど白鳥さんを大切に想っている人なんでしょう。――いや、過保護ですかね?」
あたしはどちらだと、どちらを答えても墓穴な選択を迫ってきたゲンちゃんの眼鏡の奥の目は、表情をあまり出せない人なんだろう、真意を掴めなくて……同じ掴めないでも違うのがいいと、心臓が痛い。
要らぬ力が身体に入り、鞄を胸元に抱きしめてやり過ごす。
ゲンちゃんも、きっと、普段はここまで踏み込む人ではないんじゃないか……? その手は落ち着きなく、何度も頭を掻いてみたり、着ていたパーカーのポケットに出し入れを繰り返していた。
「失恋なら、それはそれで仕方ないと思います。あんなにダメージでも、やっていくしかないし」
「……」
「ですが、なにか違和感があるので、宇佐美さんと白鳥さんには。――なら、ちゃんと解消すべきだと思います」
……事情も知らず勝手な人だ。
すみません、とゲンちゃんは、鋭角に身体を折り曲げ、あたしへと頭を下げてくる。
「やめてください」
「横暴なのは承知してます。でもオレは、白鳥さんの友人なので」
このゲンちゃんの姿を動画撮影して、仕返しとか、喜ばせる材料にしたかったと、後悔した。