瞳が映す景色
……
ここまで来たら決心も何もない。
けど、あんなことがあってからの初の顔合わせは、やっぱり足を竦ませる。
今のあたしは、どこもおかしくない? あんなふうに、あのときみたいに乱れるのだけは、もう勘弁だ。
白鳥さんは、あたしをどうにでも出来る人で――有頂天にも、どん底にでも、あたしにあなたを想像させるだけでどんなふうにでも――だから、顔を合わせるのは怖い。
「……」
それでももう、このまま顔も見ずに帰るという選択肢なんて消え失せてしまっていて。
処置室から出てきた看護師さんに入室の許可をとって、恐る恐る、音のない引き戸をスライドさせた。
遠目に見えるベッドも空きばかり。室内に患者さんはたった一人。左の手の甲に点滴の針を射された、処置台に仰向けで寝かされている白鳥さんは、貫禄のある看護師さんに滅茶苦茶怒られていた。
「……」
仕切りカーテンに遮られていて、それは半分以上空いていたにもかかわらず、あたしの姿は向こうには確認されず。
無意識に気配を消してしまっていたのかもしれない。シルエットが色濃くカーテンに映るまで気付かれなかった。
おずおずと、何処に目をやればいいか迷ったまま右半身だけ覗かせる。
何を言えばいいのだろう。皆目見当もつかない。どうせなら眠ったままでいてくれれば良かった。
帰りたい。合わせる顔なんてなかったのに。
「御家族の方ですか?」
「あっ、あの……」
あたしは、紹介できる名称なんて持っていないのに。
「――僕の、万能薬さんです」
「っ」
けれど、ふざけたことを言う人がいて。
そんな人なんかたったひとりで。白鳥さんで。
けど、次の瞬間、さっきなど非じゃない剣幕で、白鳥さんは看護師さんに怒られてしまい――そういえば、さっきは外に声が漏れていなかったから加減されていたのかと記憶を辿った。