瞳が映す景色
「三十分くらいで点滴が終わるのでまた来ます。そうしたら帰ってもらって大丈夫ですから会計へ。お薬も出ますから」
「はい。ご迷惑おかけしました」
何故、あたしが謝っているんだろうか。去っていく看護師さんに、しばらく頭を下げて見送った。
……、
「――ありがとう」
「っ、……ど、ういたしまして。……」
左後ろ。見下ろせば、どんな顔でいるんだろう。
出来ない出来ない。やっぱり無理。靴の裏には瞬間接着剤か仕掛けてあったんだと思う。看護師さんを見送ったまま、あたしは顔を上げは出来たけどそれだけで。
「もっと……目が合った途端に殴られたりするかと思ってた」
「まだ合って、ません……」
少し拗ねた吐息がする。あれは、敬語になったときのあたしへの抗議と似ている――同じなの?
「じゃあ、振り返ったら、僕は殴られるのかなあ」
「っ、しないっ。……病人には、あたし、優しい」
「そっか。なら怪我の功名? ちなみに、怪我はしてないから安心してね」
「心配なんて……」
「してくれないの?」
「そっ!!」
そんなわけないじゃないっ!! どれだけあたしがっ……
「ごめんね。驚かせて」
「……馬鹿……」
何故、そんなに以前と変わらなくいてくれるんだろう。
だからあたしは余計に振り向けない。
他にもたくさん、振り向けない。
――、なのに白鳥さんは魔法使いだ。
「ねえ、こっち、向いてくれないの?」
「……」
ああ……悔しいな。
「寂しいから、そうしてほしいな?」
まるであたしはブリキ製だ。
魔法使いに命を与えられた初めての関節の伸縮運動は、とてもぎこちない。
急かされることない魔法の言葉に忠実に従ってしまうあたしは、本当にどうしようもない。